海外で資産運用を行うにあたり、考えておかなければならないことの一つに、「自分の死後、その資産はどうなるのか」という問題があります。
あなたが海外に財産を残したまま亡くなった場合、日本にいる家族が遺産相続するにはどの国の法律に従い、どのような手続きを行う必要があるのでしょうか。
今回は、日本人がタイに相続財産を残し、遺言も作成されていない場合に、この相続財産には日本とタイどちらの相続法が適用されるのか、各国の法律の建付けについてご紹介します。
日本が国際相続に関して定めた規定とは?
日本において、相続財産や相続人について日本と日本以外の国が関係してくる国際相続が生じた場合に、どの国の法律を適用するかについて定めた法律として「法の適用に関する通則法」があります。
この「法の適用に関する通則法」は、日本と日本以外の国が関係する事柄が生じた場合にどの国の法律を適用するかについて、相続だけでなく婚姻や法律行為などについてそれぞれ定められています。
そして相続に関しては、「相続は、被相続人の本国法による」とされています。
つまり、亡くなった方が日本人の場合は、日本の法律に従い相続手続きを行うということになります。
しかしながら、日本人であるあなたがタイに財産を残したまま亡くなった場合はどうなるのでしょうか。
その場合、さらにタイ国内にある財産についてタイの法律の定めに従い、どの国の法律に従うべきかを考えなければなりません。
不動産か?動産か?資産の種類と適用される国の法律
では、タイにおける国際相続のルールとしての法の建付けについて見ていきましょう。
タイで国際相続について規定している法律は、「ACT ON CONFLICT OF LAWS B.E.2481(以下「タイ抵触法」)」という法律です。
この「タイ抵触法」では、下記の図のように相続財産が不動産か動産かにより異なるルールが規定されています。
不動産に適用される国の法律
タイ抵触法において、タイにある相続財産が不動産の場合、適用されるのは「不動産の所在地の法による」と定められています。
不動産がどの国に所在しているかにより、適用法が決まることになります。
この不動産とは「土地およびその定着物」を指し、土地、建物(コンドミニアムを含む)を意味します。
タイ国以外に住んでいる外国人でも購入することができるタイのコンドミニアムは、投資目的で所有している方も多いですが、相続人がそのコンドミニアムを相続するにはコンドミニアムが所在するタイの法律に基づいた手続きが必要になります。
動産に適用される国の法律
タイ抵触法においてタイで所有する相続財産が動産の場合、適用されるのは「被相続人が死亡した時の居住地における法による」と定められています。
動産とは「不動産以外の物」で、現金、預金、債権や車、家財などが該当します。
このためタイ抵触法に従えば、あなたが死亡時にタイに居住していた場合、現金、預金などの動産はタイの法律に基づいた相続手続きが必要となり、死亡時に日本に居住していた場合は、日本の法律に基づいた相続手続きが必要となる、という建付けに法律上なっています。
実務上の運用
ここまで、タイにある相続財産にはどの国の相続法が適用されるのかについて解説してきました。
法律上の建付けは上述のとおりですが、実際にタイで手続きをするとなると相続財産の種類に関わらずタイの行政機関や民間機関での手続が必要になります。
このため結果としては、タイにある相続財産については全てタイの法律および手続に従い、対応する、というのが実務上の運用といえます。
トラブルを避けるためにも、タイにある財産についてはタイでの相続手続が必要となることをしっかりと理解しておきましょう。
TNY国際法律事務所
日本国弁護士・弁理士 永田 貴久
TNY国際法律事務所
日本国弁護士 藤原 杯花
タイ、ASEANの今がわかるビジネス・経済情報誌『ArayZ』